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Adam Campbell Interview 前編

事故当時の状況や復活をとげるまでの過程、映画のこぼれ話やアスリートとしての考え方まで幅広いインタビューに

5月のよく晴れた日。都内ホテルのカフェで山岳アスリートとして有名なAdam Campbellのインタビューを行いました。2012年以来の再会となるこの日、アダム本人と奥さんのローラに同席してもらえました。


今回の来日は、彼自身の山での事故とその後のレースでの苦悩を描き出す映画「In Constant Motion」のプロモーションのため。
STATICBLOOMでは、Trails in Motion 6を上映していますが、そのラインナップの中にこの「In Constant Motion」が含まれている事もあり、アダムのスポンサーであるArc’Teryx(アメアスポーツジャパン様)に機会を与えていただきました。有難うございます。

2012年の来日はUTMF参戦のためでした。かれこれ7年前です。

しかし、それ以前には、横浜、蒲郡で開催されるトライアスロン大会のため2度来日しているので、4度目の日本。
アダムは少年期からスポーツを楽しんでいますが、カナダのトライアスロンのトップ要請チームに所属し数々のレースを経験。2004年にはデュアスロンのカナダチャンピオンにもなっています。生い立ちからのアダムの歴史は、以下に詳しいので紹介します。今回のインタビューでも省略したトピックです。

アダムのブログAlpineBureauから
http://alpinebureau.com/public/viewpost.php?id=18

irunfar.com のインタビューから
https://www.irunfar.com/2013/09/adam-campbell-a-life-in-motion.html

さて、実際のインタビューの内容に入りましょう。質問に対しての返答で、アダムはA)、ローラはL)として記載します。

Q) 年齢や現在の住まい、職業を教えてください。
A) 39歳で、カナダ・アルバータ州キャンモアに住んでいます。
人口1.4万人の小さな町ですが、カナディアンロッキーに囲まれた標高1,400mにある美しい山岳タウン。バンフから20㎞ほどの距離に位置します。このエリアに住み始めて4年になります。
仕事は、弁護士で、環境工学が専門です。現在は、Arc’Teryxの契約アスリートとしての仕事をしながら、弁護士事務所でパートタイムとして働いています。週に35時間の勤務で、事務所に出勤せずともリモートで仕事が出来ます。ですので、東京滞在中にも連絡を取り合っていました。急な要件以外は連絡するなと言っているのですが(笑)

Q)様々なスポーツを経験され、競技の世界でトップクラスを維持してきたようですが、「競う」というのは、家系のDNAに由来するものですか?
A) 家族はアクティブで、アドベンチャーが好きですが、スポーツで競うのは、家族で自分だけ。
祖父も父も、仕事の世界ではそれこそ競ってきていると思いますが、何故か僕だけスポーツに特化してしまったようです。

Q)そのDNAのおかげか、トライアスロン選手時代からトップアスリートとして活躍してきましたね。2011年はトレイルランニングのカテゴリーで大きな実績を残しました。CCC2位、TNF50 3位とトップランナーが集まるビッグレースで結果を出しました。それ以降、トレイルランナーとして実績を積み上げてきていますが、中でもベストと思われるレースはありますか?
A) 完走したレースを全て誇りに思うけれども、挙げるとすれば2つ。
2012年のUTMF2位と2014/2015年のHARDROCK100 3位ですね。
どちらも素晴らしい自然の中のレースで、100マイルでコースがタフです。その中で、他のトップ選手と競って結果を出したのは思い出深いですね。

Q)やはり100マイルという距離が思い出深くさせているのでしょうか?
A)短いレースも大好きなのですが、距離が長くなればなるほど、困難で達成感も大きくなると思います。特に、2つの大きな問題を解決しなくてはなりません。
1つ目は、メンタル。
2つ目は、直面する都度の様々な身体的な問題。

これらを上手に解決しなくてはなりません。これが出来る事が、「うまく走る」コツで、僕はそれらの対処が得意なのです。アルパインの環境でも同様です。問題に直面し対応しなくてはなりません。疲れている時でさえです。非常に重要な能力になると思います。さらに、情報も少ない中で行う事もあり、問題解決能力は必須です。

Q) 事故が起きた際、どういったトライアルをしていたか教えてください。
A)グレーシャーナショナルパーク内で、ホースシュートラバースという総距離55㎞、獲得標高8000mというループを移動中でした。このエリアの山は岩山で、ランニングに最適な山ではありません。クライミングの技術が要求されます。岩の弱点を見出し、プロテクションを取らず登るスクランブリングの要素も強く、ルートファインディングの能力が要求されます。
この時は“Light&Fast”でのチャレンジであり、ハーネスを付けたまま移動し、足元はトレイルランシューズSalomonのXA Alpine。登りではロープを使わず、下降時にロープを使うというスタイルです。氷河のトラバース箇所もあり、ハーネスを付けたままの方が効率的でした。移動は、ランニングというより、「早く動く」ことを意識します。

Q) なぜこのようなチャレンジをするようになったのですか?
A) レースは素晴らしい。ただ、制限があります。アルパインの環境では、自身でルートを見極めることができ、自由なのです。
培ったフィットネスの能力に加え、その他の技術を習得することで、より山を楽しむ可能性が広がったのです。レースでフィットネスを鍛え、山岳地帯で別のアクティビティをする。素晴らしいと思います。しかも、通常なら数日かかるルートを短時間で走破できることも魅力です。

Q)レースで輝かしい実績をお持ちですが、何故このようにアルパイン環境でのチャレンジに魅力を感じたのでしょうか?
A)トライアスロンでトップクラスのレースをしていたころから現在まで、世界各地でレースをしてきました。しかし、レースは全て同じだと感じてしまったのです。競う事は好きなのですが、どれも制限の中で競います。
一方、山を見上げると、どうやってあそこまで行こうか考え、そのために技術を身に付けようと思いました。そして技術を習得するにつれ、元からあるフィットネスの能力と合わせることで、可能性が広がったのです。また、キリアンやウーリなどからも影響を受けました。彼らの実績を知ると、「自分が住むエリアで何が出来るか」と考えるようになったのです。周囲のロッキーの山々では”Light and Fast“のチャレンジが行われておらず、自分に何が出来るか試したくなったというわけです。山の見方/山の捉え方・視点が変わったのです(Perspective Shift)。レースは今でも楽しんでいますよ。でも、先ほども言ったように、レースだけに集中しているわけではないし、レースは山に行くためのトレーニングという意味合いでもあります。

Q) この55㎞のチャレンジは、以前に試みた記録はあるのですか?
A) はい。でも3-4日かかっています。我々は1日で終わらせようとしました。
といっても、以前はスピード記録を狙ったものではありませんでしたし、我々が初めてFKTとして意識してチャレンジしたのです。

Q) その途中で事故にあったわけですが、再度チャレンジしますか?
A) もちろん。とても美しいエリアですし。ただ、次に行く際は、事故後という事もあり感情的になり危険なので、安全にゆっくり進むと思います。
プロテクションも取り、ロープもより使うでしょう。そして、前回一緒に行ったダコタとニックと一緒に行きたいし、彼らも行ってくれると思います。妻のローラも一緒にチャレンジしてもらうのも良いかも。彼女は医者ですし(笑)

Q) Hardrock100はあなたにとって特別なレースの様ですね。
A) そうです。山は美しく、レースは困難で、よりマウンテニアリング、大きなアドベンチャーという感じです。レース自体は商業的ではなく、飾り気がない。仲の良い人達のグループが大きなアドベンチャーを一緒に楽しんでいる感じ。他の大きなレースでは、装飾が多く、50kのレースはきっちり50kでなくてはなりません。しかし、Hardrockは、山の既成のループを使い理に適っています。

Q) あなたの様にベテランのトップアスリートが、レースだけではなく様々なマウンテンアクティビティを楽しむのは、多く見られることですか?
A) そう思います。レースにフォーカスしている若い時でさえ、レースをする環境であるアウトドアを楽しんでいます。
しかし、年齢を重ねるごとに、競争心よりアウトドアにいること自体をより楽しむようになるのだと思います。レース自体は、肉体的にきついですし、レースの本数も減ります。僕自身、1年に2-3のウルトラレースに出場するだけ。そういう中で、他の技術や興味を得て、レース以外を楽しむようになるのです。

Q) あなたの友人が、事故後に撮影の依頼をしてきたと聞いたのですが?
A) 実は、全く知らない人から撮影のオファーを電話で受けたのです。高校は同じで彼は僕を知っていたようですが、僕自身は彼を知りませんでした。ただ、彼のこれまでの作品を見て、話す事でオファーを受けようと決めました。

Q) 初めて知り合う人に、事故後という非常にナイーブな時期に撮影されるのに抵抗が無かったのですか?信頼できたのですか?
A) 僕自身のストーリーを伝えたいと考えていたし、自分ではできないと思ったので彼と一緒に作品を作ることを受け入れたのです。僕自身、慎重(Static)な方で、やり取りの中で少しずつ信頼関係を築いていきまいた。また、無理だと思ったら、途中でも止めたらいいと考えていました。実際には、どう伝えるべきかという点で同じような意見を持っていたし、彼はオープンで、話を引き出すのもスムースで、うまく進行しました。


Q) 手術のシーンなどはリアルですか?
A) 手術のシーンは、実際の2回目の手術シーンです。
背中に入っていた金属パーツを取り出す手術でした。Hardrock100にエントリーしているシーンは違います。

Q) ストーリーを一緒に考えたのですか?
A) いえ、脚本はなく、二人の会話と僕の日記をベースに組み立てていったので。

Q) 映画では、苦悩の様子が捉えられいますが、実際にはどうレース展開したのですか?
A) 最初の10㎞は調子が良く、先頭集団にいました。
その後、先頭集団がスッーと私から離れて行ってしまいました。
その状況はとても辛くて、受け入れる事は、非常に難しかったですね。過去の自分が走り去っていくようでもあり、現実を受け入れる必要がありました。その後、映像にもある様に泣きながら走っていました。

すると女性ランナーのアンナ・フロストがわざわざ立ち止まってくれて
「あなたがここに居るだけで素晴らしい事なのよ」という言葉と共に大きな抱擁をしてくれました。大きな救いでした。
その後の90㎞は、サポート・応援してくれている皆のために走りました。
これまでのレース経験で自分以外のために走ったのは、初めての経験でした。

Q) ゴール後に同じカナディアンランナーで友人のGary Robbinsがアダムが靴を脱ぐのを手伝っていましたね。友人を持つのは良いですね。
A) そうですね。特に、同じ価値観や考え方を持った友人は大切です。同じような経験を経ていると、同じ価値観や考え方を持つようになるのかもしれません。そういう意味で、アスリートの友人は貴重です。妻のローラも同じように高いレベルで山で遊びますし、同じようなプロジェクトを計画します。本当に彼女と出会えてラッキーです。

後編につづく………..後半はFKTや”Off the Clock”、トレイルランニングへのアダムの考え方です