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Adam Campbell Interview  後編

インタビュー後半はFKTや”Off the Clock”という新しい概念、トレイルランニングについて

>事故の様子や映画のこぼれ話しなど、インタビュー前半の様子はこちら

 

 

Q) ローラへの質問です。アダムの“Light and Fast”のチャレンジはリスクを伴うものもあると思います。止めようとは思わないのですか?
L) 事故後に、アダムはより慎重になりました。また、チャレンジすることの内容をお互いによく話すようになったので、信頼しています。
A)ローラと話さずにチャレンジにはいきません。ローラが、心配だという場合は、実行には移しません。これは、事故から学んだことです。自分の行動が、他人に如何に影響を及ぼすか。妻、両親、兄弟、山岳パートナー、医療チーム、レスキューチーム、その他この事故を知った人々。ランナーは時には自己中心的です。
でも、その行動が広く影響を及ぼすことに気付いたのです。また、自分の行動により注意深くなったというより、より意識するようになったと思っています。以前は比較的難易度の低い岩場をロープを付けずにスピードで登るスクランブリングを楽しんでいましたが、今ではスクランブリングには怖さを感じます。一方で、より困難なクライミングにきちんとロープを付けて挑むことに魅力を感じています。

Q) これまでのFKTチャレンジでベストなものは?
A) 2つあります。
1)アルバータ州最高峰Mt.Columbiaでのスキーツアーです。
通常14-15時間かかるところを9時間でフィニッシュしました。
これは、事故の9か月後の記録です。ただ、FKTを狙ったわけではなく、体調が良く、身体が良く動き、結果FKTを達成したというモノでした。事故後初の大きな山へのトライアルで、たまたまコンディションが完璧だったのです。
2)Rock Wall Trail 60㎞。
このトレイルは、キャンモアの南にあるトレイルでアルバータ州とブリティッシュコロンビア州にまたがり、とても美しいトレイルです。通常5日間かけて歩くトレイルですが、6時間30分ほどで完走しました。とてもマジカルな一日でした。また、妻との山行でもFKTがありますよ。一緒に山に登り、FKTを記録したのです。

Q) あなたの活動は、トレイルランの可能性を押し上げたり、新しいアクティビティを創造したりする事に役立っていると思いますが、どう考えますか?
A)  トレイルランといってもその定義は非常に広いです。
代々木公園のトレイルを走るのもトレイルランだし、山岳を走るのもトレイルランです。ただ、僕が今やっているのは、レイルランとアルパインクライミングの中間です。どちらかというと、アルパインクライミングに近いですが。

(アダムが説明用に書いてくれた図)

Q) HARDROCK100までの事故後10ヶ月では、リハビリのためにレースに向けたトレーニングはあまりできなかったのではないですか?
A) 理学療法やマッサージ、鍼灸などに時間を費やしました。身体を動かし始めた時、肉体の反応はとても良かったですが、やはり以前の様にはいきません。以前の身体は知り尽くしていたけど、今の身体の初心者になったのです。新しい身体をどう動かすか学びなおす必要がありました。
L)アダムは、リハビリにとても熱心で意欲的でした。常に動いていて、横になって嘆いている様子などありませんでした。
A)起こったことや、事故後の身体を嘆いても仕方ありませんし、動く(moving)ことが本当に好きだから。
動く(moving)ことが僕にとっても大切なのです。以前のようなアスリートに戻れなくても、動いていたいのです。それに、関節など大きな骨を損傷したわけではなく、損傷していてもリハビリがやりやすい箇所だったのはラッキーでした (笑)
たった今座っているだけで腰骨は痛むけどね。

HARDROCKで傷んだのは、踵の骨。HARDROCKの様にキツイレースでは、短いスピードレースよりハイクが多く、肉体的には衝撃を受けにくいので比較的楽だったかな。可笑しなことに、以前の様には速くはないけれど、身体が強くなった。以前よりジムでトレーニングするし、クライミングもスキーもやるからだと思います。

Q) 今年2018年はHARDRCOKを走りますか?
A) 現地にはいく予定ですが、走りません。今年は映画のために各地を訪れますし、参加する際にはきちんとトレーニングをして出たいと思います。

Q) 出走の際は表彰台を狙いますか?
A) 特に狙いません。常にゴールは、自分のできるベストを尽くすことにあるので。

Q) 自身を“Social Media Junkie”と言っていますが、事故後に一時期SNSを中断しましたね。その理由と、いつ再開したか教えてください。
A) これについては、妻と沢山話しました。
事故後は、回復に集中する必要がありましたし、身近な人と過ごす必要がありました。
そのために自分があるべきで、その他とのつながりを一旦お休みする必要がありました。また、非常に個人的な時期でしたし、その時間を過ごすことが大切でした。SNSでは、多くのメッセージを貰い嬉しかったのですが、その一つ一つに返事を出さないといけないと思う性分なので、それがキツくなってきました。
その時に妻が、提案してくれたので中断することを決めました。結果、回復に集中でき、2か月間の中断後に再開しました。それに、新しい現実を受け入れるために、こうする必要がありました。自身に向き合う時間が必要だったのです。

Q) 事故から大分時間も経過し、中国でのタフなレースも走ってきましたね。以前のようなトップアスリートに戻れる状況になっていると思うのですが、どう考えますか?
A) そのようには考えていません。以前とは「違う」アスリートになったと思っています。
ランニングにフォーカスしていたアスリートから、アドベンチャーやクライミングにより移行してきています。
より広い視点を持つ違うアスリートになったのです。より多面的なアスリートです。そのことにエキサイトしています。また、より速く走る事に以前の様に魅力を感じません。山にいて新たなチャレンジをする事に魅力を感じます。

Q) 何か心に決めているゴールや達成したい記録などはありますか?
A) 特に何か特定なものを決めていません。究極には、長く健康的に山を楽しんでいきたい。常に自身へのチャレンジをし続けたいのもある。70歳になっても80歳になっても、山で自身へのチャレンジをしていきたいと思います。

Q) 次世代のアスリート育成などの予定はありますか?
A)  そういったことはやりたいと思います。
事故のおかげで、その基礎が出来たとも思いますし、安全面での教訓は伝えていくことが出来るでしょう。それから、同じように怪我や障害から回復しようとする人々に自身の経験を伝える事も大切だと思っています。

Q) Joe Grantがブログで“Off the Clock”という概念を紹介していましたね。
「FKTで忘れてはいけないのは、レースなどの規制から離れ、自由に創造性をもって山を走る事だ。しかし、さらに時間という概念を取り外し、時計を外し自由に山を走り楽しむというスタイルがヨーロッパで認識されてきた」という内容でした。これについてはどう思いますか?
A) FKTでさえ、他の人の“タイム”との競争という側面があります。
“Off the Clock”は時計を外すことで完璧にエゴを捨て、時間から解き放たれ、自由に走ることが出来るのです。
これはトレイルランニングの究極の創造性、肉体の究極の表現に繋がるモノではないかと思います。
参照)https://www.irunfar.com/2018/02/off-the-clock.html

Q) 日本では“トレイルランニング”=“レース”というイメージで、本当に山を楽しんでいるという感じは受けないのですが。
A) レースは、山への導入の役割もあると思います。
布石ですね。レースで自信を得、それをベースに違うアドベンチャーに踏み出すための。Joe GrantやAnton Krupickaの様にレースからスタートしてより大きい山での活動に移行していくのです。恐らく、日本でもそうなっていくのではないでしょうか。
カナダでは、保護された山岳地帯が多く、レースを開催できないエリアも多く、自身で山に入っていかなくてはなりません。そういった環境の違いもあるのかもしれませんね。

Q) In Constant Motion 映画の冒頭の山は何処ですか?
A) カナダの北部トゥームストーン準州立公園内です。妻のローラがそこで働いていたので、訪ねた際に撮りました。
人の手が入っていないとても素晴らしい山岳エリアです。町から車で5時間ダートロードを走り、携帯も通じないエリア。今住むキャンモアから北に2,000㎞の距離にあります。ユーコンの近くですね。
            参考)http://www.env.gov.yk.ca/camping-parks/tombstonepark.php

Q)  山に向かう際のモットーなどありますか?
A)  特別なものはないですが、その土地土地の自然をレスペクトする事、感じる事に努めています。

Q)  日本でチャレンジしたいことはありますか?
A)  パウダースキーを楽しみたいですね。

Q) 日本では沢登りという独特のアクティビティがあります。
A) それはやってみたいですね。夏に戻ってきてチャレンジしたいと思います。季節に応じたアウトドアアクティビティをするのが好きだし、楽しいよね。冬にはスキー、夏にはクライミングや沢登りもいい。

Q) 最後にローラに質問です。2017年のHARDROCK100では、事故後すぐという事もあり参加を止めたりはしなかったのですか?
L) いえ、アダムにとって、以前のような自分を取り戻すために大切なレースだと分かっていたので、心配でしたが止めませんでした。

Q) ローラはHARDROCK100でアダムのサポートしたのですか?
L) いえ、医療の研修中で行けなかったこともありますし、レース後2週間後にアダムとの結婚式だったのでやることが多すぎて。多分そこにいて彼を見ているのも辛かったと思う。だから、電話で話していましたよ。映画で電話しているシーンもカナダとの長距離電話だったんですよ。

Q)アダムがゴールできると思っていましたか?
L)私も含め誰も、どうなるか想像できていなかったと思います。私にできたのは、GPSで彼の位置を確かめるくらいで、とても心配でした。
A) 先が読めない、どうなるか分からない、こういったものがアドベンチャーの一つの側面だよね。

約2時間にわたるインタビューを終えて

トレイルラニングレース界ではトップアスリートとして知られるようになったアダム。
事故の前から、出場レースの内容が少しづつ変化し、より山岳での活動が増えた印象を私自身思っていた。

その志向性、背景が少し解き明かせた気がする。
アダムも含め、彼がインタビュー中に挙げたアスリートたちは、単なるレーサーではなく、様々な山岳アクティビティを「トレイルラン」「レース経験」などを下地に積み上げ、色々なスタイルで、色々なルートから、4シーズン通して山を楽しんでいる。

獲得した「山を走れる肉体」をベースに、クライミングや沢登り、山岳滑降などのアクティビティを楽しみ、経験と技術を積み重ねていく事で、純粋なクライマーやスキーヤー等では成し得ない「別の」喜びを勝ち得ることが出来るかもしれない。その「別の」は、「スピード」や「行動する絶対的な体力」などだろう。

アダムは「山を走れる肉体」をベースにLight&Fastというスタイルでの山行中に滑落した。
通常であればロープを装着してクライミングしているエリアのはずで、岩が抜けてもこれほどひどいけがを負わなかったと推測される。もちろん、無謀なトライではなく、クライミングの経験やスキルも身に付けたからこそのチャレンジであっただろう。

一方で、岩抜けも起こりうる事として安全を担保しながらクライミングや山行をするのが一般的だ。
ここに、Light&Fastのリスク性があるが、アダムは、その当然含まれていたリスクをもろに受けたと言えるのかもしれない。

ここでいうリスクとは、アダムが不注意や未熟だったという事ではなく、山一般に存在する自然が起こすリスクと、軽度なミスが致命的になりうるというリスク。これによって、Light&Fastというチャレンジの価値が下がるとは言えないが、そこに含有するリスクを改めて知らせてくれる事例になったとはいえると思う。

アダムの事故から学ぶとすれば、Light&Fastというスタイルの善し悪しではなく、以下のようなことを今一度自分の中で整理し、理解し、今後に役立てていく事だと思う。
・トレイルラン=レースなのか?山を楽しむことなのか?
・個人の可能性へのチャレンジ性
・レースの自身にとっての価値
・レースで培ったフィットネス力を他の分野で活かすことが出来るか?したいか?
・求めるトレイルランのスタイルは何か
・自身の技術や、リスクヘッジが十分か
など。

最後に、事故の際に同行していたDakota Jonesのブログを紹介します。
ここでは、彼が感じたリスクテイクについて、リスクのマネージや対処についての考察が書かれています。
参考までに。
https://www.irunfar.com/2016/11/the-risk.html